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4年に1度のスポーツの祭典、オリンピック・パラリンピック。熱き選手たちの戦いの裏側で、各スポーツメーカーも奮戦を繰り広げてきました。東京2020大会で 日本代表選手団が着用していた「ポディウムジャケット」を手がけた「アシックス」は、独自のテクノロジー「ACTIBREEZE™」を開発し、衣服内のムレを軽減させ、快適性を突き詰めたウェアを誕生させました。

前編では、日本の高温多湿な夏の環境下でもずっと快適に着続けることができる「通気性」を持ったウェアの開発至った経緯を紹介しました。いよいよ本格的な製品の開発がスタートしていきます。後編では「ACTIBREEZE™」の開発秘話をより深掘りしていきます。

前編はこちら

今回のビギニン

アシックス アクティブリーズ 開発チームの松本さんと小西さん

アシックス ACTIBREEZE™ 開発メンバー
松本竜文(左)・小西壮一郎(右)

左:スポーツ工学研究所 スポーツコンテンツ研究部 機能テキスタイル開発チームに所属する松本さん。アシックス一筋23年。学生時代は野球やラグビーに明け暮れるスポーツ少年だった。「選手として1番になれないなら道具で選手たちをサポートしたい」というアツい想いを胸に入社。
右:アパレル・エクィップメント統括部 プロダクトマネジメント部 ランニング・トレーニングPMDチーム所属の小西さん。ファッションアパレルの業界で5年ほど働いた後、2009年にアシックスへ入社。サッカー部だった学生時代に愛用していたのがアシックスのスパイクで、それが入社の決め手となったそう。

struggle:
日々繰り返す実験。そしてオリンピック延期

ここで少し、アシックスが誇るスポーツ工学研究所について簡単に紹介します。

「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンを具現化する、アシックスの基幹を担うのがこのアシックス スポーツ工学研究所。1977年にアパレルの研究部門として誕生し、1990年に現在の神戸市西区に竣工、2015年には新館が増設されました。運動時の身体の変形や負荷を分析する人間特性に関する研究や、材料に関する研究、構造に関する研究など、施設内では日々さまざまなテストが行われており(実験室は取り合いになっているんだとか!)、世界中の人々の可能性を最大限に引き出すイノベーティブな技術、製品、サービスを継続的に生み出すことを使命としている施設。いわばアシックスの製品開発の心臓というべき場所です。

話を本題に戻しまして。建設中の国立競技場の横で浮上したキーワード”通気性”を取り入れた快適なウェアを形にするにはどうすればいいのか。松本さんが活路を見出したのは、以前から研究を続けてきた「アシックスボディサーモマッピング」でした。

アシックス アクティブリーズ 開発チームの松本さんと小西さん

「元々、走行を続けた時に、体の体温が上昇する部位や場所、そしてどの部分に一番汗をかくのかという研究をしていて、その2つのデータを組み合わせて独自の「アシックスボディサーモマッピング」というものを作っていました。これを活用することによって、体のどの部分を冷やせばもっとも効果的なのかがわかったのです」。

過去のデータを参考にしながらも、生地の通気性や重さの計測、そして人やサーマルマネキンを使った実験も重ねていったそうです。今回は特別に「人工気象室」というあらゆる使用環境を再現させることが出来るという部屋で、実際の開発時に行ったという実験を少し見せていただきました。

こうした工程を重ね、導き出した答えが、身体の中心部分、主に背中の中心や胸元に高通気機能を取り入れることで、効果的に衣服内の湿度が快適に保たれるというものでした。

「先程のような実験によってどこを高通気にすれば良いのかがわかったので、そこを中心にメッシュを配置していくことにしたんです。そうすると面白いことに、「アシックスボディサーモマッピング」の解析画像とウェアの見た目がだんだんと近づいていきました。だからこれを生かすような形で、デザインとして落とし込んでいきました」。

asics アシックスのポディウムジャケット
実際のポディウムジャケット。よく見ると大小様々なメッシュが配置されている。

こうしてようやく完成……といきたいところですがこのウェアを採用するにはJOC(日本オリンピック協会)にプレゼンをして、承認を得る必要がありました。

松本さん曰く、じつは最初の感触はあまり良くなかったんだそう。

「プレゼンでは機能構造の他にデザインの提案も合わせて行いました。機能や考え方に関してはOKをいただきましたが、デザインの点でもっと日本らしいものにしたいとフィードバックがありましたね。その後何度かやり取りを重ねて、後に“サンライズレッド”と呼ばれるカラーをあしらったものが採用されたんです」。

アシックス アクティブリーズ 開発チームの小西さん

JOCからの承認を受けて今度こそ完成し、オリンピックの開催! と思った矢先、新型コロナウイルスの蔓延によって延期されることが決定します。2017年からスタートし、2020年の開催に向けて身体を張って開発に勤しんできたチームにとっては仕方ないとわかっていても、もどかしい時間が続きます。

そんな時間を小西さんはこう振り返ります。「このように悔しい想いをした関係者はきっと社内外にもいっぱいいたと思います。当時はこれからどうなるのか誰にも予想できない状況でしたし、受け入れるしかないという感じでしたね」。

そして迎えた2021年。無観客での開催が決定します。

reach:
新技術を生かしたウェアをより多くの人々に。

オリンピックが無事開幕し、日本代表選手団が着用したことでようやく陽の目を浴びた「ポディウムジャケット」。評判も上々でした。

「選手の方々にも涼しいと言っていただけたし、一般の方のリアルな評判も気になってSNSでエゴサーチをしてみたんです(笑)。すると他の国よりもかっこよく見えると言ったツイートがあってそれがすごく嬉しかったですね」と松本さん。

アシックス アクティブリーズ 開発チームの松本さん

また一方で「ACTIBREEZE™」のテクノロジーを採用した、新商品の製作にも乗り出していました。東京大会でのオリンピック選手の着用を想定したスポーツウェアを、一般の人々に向けたプロダクトに落とし込むため、意識されたのが「汎用性」と「年間を通じて快適に過ごすことができる」という点でした。

小西さんはその2つを実現させるために、素材とメッシュ部分を少し変更します。

「まずは汎用性を高めるために素材を変更することにしました。ポディウムジャケットにはダブルラッセルというラッセル素材を使用していましたが、日常使いすることを考えてニットジャージー素材を採用しました。メッシュに関しては、”衣服内の湿度を快適に保つ”というACTIBREEZE™の考え方をベースに、年間を通じて着用することを想定しながら、長袖、半袖、ジャケットなど商品企画においてブラッシュアップを重ねました」。

こうして「ACTIBREEZE™」のテクノロジーを取り入れつつも、ブラッシュアップされた「ダブルラッセルメッシュジャケット」「ジャカードジャケット」「ジャカード半袖シャツ」の3品番が2022年の2月に発売されました。

実際に着用している小西さん曰く「夏の炎天下の中、朝9時から夕方5時くらいまでこれ1枚だけで運動をしていたんですけど、本当に汗をかきにくく、不快感も少なく過ごせたんです」と笑顔の自画自賛。

この7月には秋冬の新商品として長袖シャツ、トレーニング用のジャケットが登場、来年にはウィメンズの発売も予定しているとのこと。ぜひチェックしてみてください。

今回の取材で印象に残ったのは、商品開発にあたって、実験で得られた数値やデータ以外に、開発チームの皆さんが走ってそれぞれが感じた感覚をとても大切にされていることでした。人々の快適な生活を叶えるために、アスリートに負けないくらい日々奮闘してくれている開発者の汗にも敬意を表したいと思います。

ACTIBREEZE™ シリーズ
1年を通して衣服内のムレを軽減し快適性を保つアシックス独自のテクノロジーを生かした製品シリーズ。「アシックスボディサーモマッピング」に基づく高通気構造デザインとしなやかな吸汗速乾素材の2つの機能を融合させ、スポーツシーンだけでなく日常のシーンでも快適に過ごしやすいように設計されている。ACTIBREEZEジャカード半袖シャツ5500円(税込) ACTIBREEZEジャカード長袖シャツ6000円(税込 ※7月下旬発売予定)

(問)アシックス
https://www.asics.com/jp/ja-jp/mk/training/actibreeze


写真/中島真美 文/小佐田莉沙

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