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23年間勤めていたJAXAの関連企業を辞め、趣味の自転車店をオープンさせた中島義之さん。エンジニア気質が存分に炸裂したカスタムメイドの自転車は評判となりますが、そのうち自分の作るちょい古自転車に似合うサイクルウェアがないことに気づきました。ないのなら自分で作ってやろうと考えた中島さんは、TBプランニングの鈴木宏志さん、東光商事の堀正史さんという援軍を得て、ついにアパレルブランド「N.CYCLE FACTORY」を立ち上げることに。後編ではそのファーストコレクションに込めたこだわりと、ブランドのこれからの展望をご紹介します。

今回のビギニン

ナカシマサイクルファクトリ店主・宇宙開発エンジニア
中島義之さん

1974年生まれ。外資系半導体メーカー勤務後、航空整備士を志して航空機体整備課に進学。卒業後、宇宙開発関連企業に入社し、23年間勤務。2019年に退社しハンドメイドスティールバイク専門店「ナカシマサイクルファクトリ」開業。21年にはJAXAの宇宙機器開発実験をサポートする会社「Hue CRAFT」も立ち上げる。

Struggle
サイクルウェアであり街着
ミリ単位の攻防の末
辿り着いた黄金比

上の2枚は中島さんが愛用するサイクルジャージ。ともにデザインやカラーリングは気に入っているが、ヴィンテージのウールのもの(右)は汗をかくとチクチクし、現行のナイロン素材のものは(左)はピタピタで身体の線が出すぎるのが不満。

摩擦や切り裂きに強いコーデュラナイロン。最強のナイロン繊維と呼ばれるそれを柔らかな編み地に仕立てる技術を持つ「東光商事」の堀さんと知り合い、中島さんのオリジナルサイクルウェアを作る夢は一気に現実味を帯びていきます。東光商事と結びつけたアパレルプロデュース会社「TBプランニング」の鈴木さんに早速サンプル作りを依頼しました。

遂に完成したファーストコレクションを着てパチリ。自転車に乗っていても、街着でも絶妙にイケるナイスバランスに。

鈴木さんが参考にしたのは、ハイテク素材が開発される以前、ヨーロッパの自転車選手たちが着ていたウール製のサイクルウェア。それをイメージソースに、今の街着としても着られるようアレンジすればいいものができると考えたそうです。そして仕上がった試作品は鈴木さんとしてはかなり満足のいくものでしたが、中島さんの評価はなかなかシビアだった模様。「普通の服は立っている姿が一番カッコいいもの。でもサイクルウェアは自転車にまたがっているときに一番カッコよく見えるべき。鈴木さんもそこはしっかり理解してくれましたが、ちょっとしたサイジングやディテールがまだまだだったんです。ボクもそうですが、自転車好きは1日に50㎞も自転車に乗る人がザラ。服がバタついたり、肌の上を滑ったりすることがストレスになる。そのひとつひとつを潰したかったんです。アパレルのプロにダメ出しするのは大変おこがましいのですが、そこは妥協しちゃダメだった」。中島さんのこだわりをすべて反映するのは技術面にもコスト的にも厳しく、じつはチームは途中で解体寸前となったこともあったとか。それでもトライ&エラーを重ね、ようやく「N. CYCLE FACTORY」ブランドのファーストコレクションが完成しました。

ファーストコレクションのなかでもビギンが一番の売れ筋と見込んでいるのが、パネルボーダー柄のニットポロです。生地は表にコットンとコーデュラを混紡した糸、裏に吸水速乾性に跳んだポリエステル糸が出るように編み上げたもの。だから肌触りが良く、サイクニングで汗をかいてもサラサラ。パターンも秀逸で、肩傾斜・袖口幅・胸囲・胴囲は、自転車に乗った前傾姿勢でも降りたときでも、ともに身体に沿う絶妙なバランスに仕上げています。もちろん背中にはバックポケットも装備。と、サイクルウェアとしての高い機能を叶えつつ、ご覧の通りお洒落な街着として十分使えるレトロなポロシャツデザインに仕上げているのがさすが。走行時にパタつかないようやや小ぶりに設計した襟も、今どきのジャケットなんかと相性バッチリです。

レトロといえば、古いベースボールシャツの襟形を参考にしたご覧のニットもいい出来です。こちらはコットンコーデュラの糸を“ホールガーメント”で編み立てたモデル。縫い目がないので素肌に着てもごろつかず、とても快適な着心地です。また部位ごとに編み地を切り替え、身体へのフィット感を高めているのも特徴。ちなみにボディの脇の編み目を荒くしてるのは、汗をかいたときのベンチレーション効果を高めるための工夫です。

「N. CYCLE FACTORY」ではすっきりしたシルエットのパンツも製作しています。メイン素材は2WAYストレッチのコーデュラリッブストップですが、さらに運動性を高めるべくヨークと膝裏にはコットンコーデュラのニットをトリミング。このニット部分は衣服内の熱や湿度を放出する効果もあります。そのほかにも乗車姿勢を考慮してスラントさせたカーゴポケットや、チェーンと干渉しないようにパンツの裾部分を内向きではなく外向きに巻き込むベルクロアジャスターなど、細かいところまでこだわりまくりです。

いずれにしろ、「N. CYCLE FACTORY」のファーストコレクションは今までのサイクルウェアとははっきり一線を画すもの。サンプルを出展した自転車関連のイベントはもちろん、今月開催された国内最大のアパレル展示会「ファッションワールド東京2022 サステナブルファッションEXPO」での評判もすこぶる高く、お洒落でありたい自転車乗りの間で人気を博すことは間違いないなさそうです。

reach
お店、自転車、仲間……
3 つの歯車が噛み合うことで
大きな推進力が生み出せる

3つの歯車を組み合わせた「ナカシマファクトリ」のロゴマーク。これはそのままアパレルブランドの「N.CYCLE FACTORY」のほうにも用いられている。

中島さんのお店のロゴは、3つのギヤが使われています。自転車店らしいロゴですが、そこにも中島さんのこだわりが。「小さな力もギヤを介してしっかり噛み合えば大きな力となる。そんな意味を込めました。ちなみに3つのギヤは“お店”“自転車”“仲間たち”。ボクはそもそも3という数字が好きなんです。大きな力を発揮するときの最低限の数値だから。たとえば三脚ってありますよね。物体が重力下で静荷重を受けて自立する場合、一番効率的かつ最低限な脚の数が3本。あと3は奇数ですよね。割り勘するときにキリがいいのは偶数ですが、なにかを決定するときには奇数の方がいい。だから3が好きなんです」。今回のサイクルウェアも、奇しくも「ナカシマサイクルファクトリ」「TBプランニング」「東光商事」の3つのギヤが噛み合って生まれたもの。この関係性を大事にすれば、今後もっと大きなプロジェクトができるはずと力強く語ります。

「N.CYCLE FACTORY」がコーデュラの次に着目しているのがケブラー繊維。これを紡いだ糸(写真)ですでにカットソー素材を作ることに成功したそう。

実際「N.CYCLE FACTORY」は早くも次のサイクルウェアを開発中です。素材に用いるのは、なんと防弾ベストや作業用グローブに用いられるケブラー繊維! 「ボクは店舗経営のかたわら、自転車競技大会の裏方的な仕事も行なっており、レース中に落車してひどい怪我を負う選手をしょっちゅう見てきたんです。そこで擦過傷のダメージだけでも防ぐことができる服が作れないかと考えたとき、思い出したのがケブラー繊維。じつは宇宙服は一番内側にケブラーの層があり、宇宙空間を超高速で飛んでいるデブリ(宇宙ゴミ)に当たった場合も、飛行士たちを守る最後の盾になっているんです。だからこれを使った自転車用のプロテクションアンダーウェアなどを作れたらと」。

もちろんケブラーを用いたアンダーウェアなんてこの世にありません。実現すればサイクリストだけでなく、いろんなスポーツに活用できそうです。「アパレルの世界もボクのエンジニア的発想が活かせるんだということがわかって、今はとても楽しいです。まだまだ小さなプロジェクトですが、この3つ歯車でなければ生み出せないものを自由に発想していきたいですね。コスト面は度外視して。あ、こんなことをいうと、鈴木さん、堀さんにまた怒られちゃいますね(笑)」。

PRODUCTS買い説

N.CYCLEFACTORY
パネルボーダー サイクルニットポロ

摩耗に強いコットンコーデュラの糸を表に、給水速乾性のあるポリエステルが裏の肌に当たる面に出るように特殊な製法で編み上げた生地を使用したニット。パネルボーダー柄に加えてサイクルウェアには珍しい襟付きのデザインが、レトロな雰囲気を盛り上げています。もちろん快適な乗車姿勢を取れるようパターンやサイジングには徹底的にこだわっています。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
ベースボールカラー サイクルニットポロ

こちらはコットンコーデュラ糸を使用したホールガーメント(無縫製編み立て)ニットポロ。シームレスなので肌触りが心地よく、部位ごと編み地を切り替えているためフィット感も格別です。クラシックなベースボールシャツからインスパイアされた襟型も特徴で、スタンドカラーともヘンリーネックとも一味異なる新鮮な雰囲気で着られます。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
バックライン サイクルニットポロ

「パネルボーダー サイクルニットポロ」と同じく、表にコットンコーデュラ、裏にポリエステルが出るよう編み上げた生地を使用。こちらもレトロなポロシャツ風デザインですが、背面と右袖に入れた大胆なラインがアクセントになり、モダンに着こなせます。背中には鍵などをしまうのに適した止水ファスナー付きのバックポケツトを備えていますが、この中は蛍光色のメッシュの袋地となっており、後方からの視認性とベンチレーション効果を高めることができます。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
2WAYストレッチ ニットトリミング サイクルパンツ

タテヨコ2方向にストレッチするコーデュラリップストップ生地をメイン素材用い、ヨークと膝裏をコットンコーデュラニット(裏面は吸水速乾ポリエステル)で切り替えたサイクルパンツです。カーゴポケット、裾を締めるベルクロ(車道側となる右側には反射材でブランドロゴをプリント)のほか、深い後股上、極薄パッドでクッション性を持たせたガゼットクロッチ、タックで立体的に仕立てた膝など、サイクリストのための機能的ディテールが随所に。ゴムを仕込んだウエストは細かなサイズ調節ができるようアジャスターを装備しますが、それをフロントではなくサイドに配するなど、前傾時のストレス軽減に徹底的に配慮しているのもさすが。右ポケットには、ファスナー付きのコインポケットも。各1万6500円。

SHOP INFOMATION

昔ながらのスチールフレームにこだわり、センスのいいカスタム車両を組みあげている「ナカシマサイクルファクトリ」。ビンテージな雰囲気をたたえつつ、走りも楽しめる自転車に乗りたいならぜひ訪れてみてほしい。オーダーメイドも可能だ。もちろん今回ご紹介した「N.CYCLE FACTORY」ブランドのサイクルウェアも販売している。
住:茨城県土浦市乙戸854-4
☎︎:090-1795-3464
営:15:00〜22:00 休:火曜
email:nakashima_yoshiyuki01@yahoo.co.jp

問い合わせ先/N.CYCLEFACTORYオンラインストア

写真/松島星太 文/吉田 巌(十万馬力) 編集/増井友則(e-begin)

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